低体温症を再認識

 2009年7月13日~17日(4泊5日)、大雪山からトムラウシ山への縦走で参加者15名+ガイド3名のうち8名が亡くなった事故は記憶に新しい。この本は、生還者へのインタビューを通して事故原因を分析し、登山者に警鐘を鳴らしてくれる。トムラウシ山への縦走を願っている者にとっては、明日は我が身かもしれない。
 メモがわりに相当量の引用を行うことをお許し願いたい。

画像



■トムラウシの気象条件
 7月16日のトムラウシの気象は、大雪山では例年のように起きている気象状況であり、決して特別な現象ではない。また、同様な気象状況は北アルプスの稜線付近でも起きている。2,000m級の大雪山の稜線付近の気象状況は、3,000m級の北アルプスの稜線付近(剱御前小舎2,750m)の気象状況に匹敵するものであり、夏山といえども零度近くの低温下、風速20m近くの強風下にさらされることがある。

 初日は白雲岳避難小屋までの快適な山行

画像


 翌日から天気が崩れ初め、3日目のヒサゴ沼避難小屋から出発する時点では、気温も相当に下がり(稜線では5度以下)、風速20mの強風にさらされたと想定される。
 引き返すと次の団体が入ってくるし、帰りの飛行機便は予約してあるし、前に進むしかなかった。

画像



■低体温症とは
 体温が35℃以下に下がった病態。

 体温の低下とそれぞれの症状は以下のとおり
  36℃    寒さを感じる。寒気がする
  35℃    手の細かい動きができない。震えが始まる。
         歩行が遅れがちになる。
  35~34℃ 歩行は遅く、よろめくようになる。筋力の低下を感じる。
         震えが激しくなる。口ごもるような会話になり、
         時に意味不明の言葉を発する。無関心な表情をする。
         眠そうにする。軽度の錯乱状態になることがある。
         判断力が鈍る。
 *山ではここまで。これ以前に回復処置を取らなければ死に至ることがある。
  34~32℃ 手が使えない。転倒するようになる。まっすぐに歩けない。
         感情がなくなる。しどろもどろな会話。意識が薄れる。
         歩けない。心房細動を起こす。
  32~30℃ 起立不能。思考ができない。錯乱状態になる。
         震えが止まる。筋肉が硬直する。不整脈が現れる。
         意識を失う。
  30~28℃ 半昏睡状態。瞳孔が大きくなる。脈が弱い。
         呼吸数が半減。筋肉の硬直が著しくなる。
  28~26℃ 昏睡状態。心臓が停止することが多い。

   山岳遭難で低体温症で亡くなるケースは珍しいものではなく、
  「疲労凍死」だったと報道された遭難のほとんどが、低体温症が
  直接の原因だったといわれている。


■生き残ったガイドの検査値
  白血球数   15,800(8,500)/μl
  GOT    185(40)IU/l
  GPT     86(45)IU/l
  LDH    641(400)IU/l
  CK  13,000(197)IU/l

 ※ ビックリ!
   CK(クレアチンキナーゼ)とは骨格筋などの筋肉内に
   ある酵素で、筋肉細胞のエネルギー代謝に重要な役割を
   果たしている。筋肉に障害があるとその数値は上がるが、
   激しい運動、マラソン、山登りなどで筋肉を著しく使う
   運動をした後でもその数値は上がる。
   正常値は男性の場合、57~197IU/l。
   これまでの調査では、
    24時間山岳耐久レース(ハセツネ)レース後:2,134
    フルマラソン後:1,476
    100キロウルトラマラソン:8,900
   だそうだ。
   明らかに異常すぎる。原因は、3日間の運動で筋肉が壊
   れたこと。強風下での耐風姿勢により、筋肉の伸縮性収
   縮により、筋肉が壊れたこと。店頭による打撲で直接的
   に筋肉が壊れたこと。低体温による震えで熱を作る手段
   として筋肉内のタンパクを分解したことなどにより、CK
   が高値を示したものと考えられる。これは、いかに大き
   な物理的ストレスがかかったかを物語っている。


■アシドーシス
  人間の血液は、酸とアルカリのバランスで中性に保たれている。これを「酸塩基平衡」という。血液が賛成に傾いたものを「酸血症・アシドーシス」といい、アルカリに傾いたものを「アルカリ血症・アルカローシス」という。正常はPH7.4であるが、7.35以下になったものは「アシドーシス」と定義される。
 アシドーシスが軽度の時は脱力感、疲労感、吐気、嘔吐などの症状が出るが、重度になると意識を失うことになり、PHが7以下になると錯乱状態になり、昏睡、死に至る。重度になった場合は重曹を水を注射して、中性に戻さなければならない。
 筋肉運動のエネルギー源として糖が分解されると乳酸が蓄積するが、これが低体温になると排泄されなくなり、乳酸が溜まってしまい、血液内の乳酸値が高まり「乳酸アドーシス」になる。もうひとつ、低体温時の震えも、筋肉の運動により乳酸が増えることになる。

 低体温症のアシドーシスになる現象は、低体温による肝機能低下で酸が蓄積されたこと、糖が分解された乳酸が低体温で増え、排出されないこと、震えによる乳酸の増加などが複合されて血液が賛成になるものと思われる。


■行動エネルギー
 登山の場合、消費エネルギーが大きい。そこで、どれだけのエネルギー(カロリー)を捕球すれば良いものが問題となる。登山の場合、登りでたくさんのエネルギーを使うことはもとよりだが、平らな道や下りでもある程度のエネルギーを使う。また、じっとしていてもエネルギーは使われるので行動時間の長さも関係してくる。更には、自分自身の体重やザックが重いほど、使われるエネルギーも増える。

 この本では、消費エネルギーの推定式が紹介してあり、なるほどと頷ける。


■エネルギーの消費量と摂取量の問題
 どれだけのエネルギー(カロリー)を補給すべきか、公式で表してある。合っているかどうかの検証は難しいが、十分役に立つ指針だと思う。
 トムラウシの生還者にこの公式を当てはめた場合、三日間の平均で、体重64kgの男性で2,000~2,500kcalのエネルギーを使っている。なんとこれは、フルマラソンの消費エネルギーと全く同じではないか!びっくり。しかも、好天で歩きやすい環境での最低エネルギーである。
 更には、行動中以外にも基礎代謝量のエネルギーを消費しているわけで600~800kcalの消費エネルギーを加える費用がある。
 そうすれば、一日あたりの総消費エネルギーは3,000kcalを超えることになる。

画像


 面白いのは、ザック重量の増加によって消費エネルギー(体力度)がどのように変わるかということ。例えば体重50kgの人はザックなしで登山した時のエネルギーを100%とすると、5kg、10kg、15kgのザックを背負ったときには、エネルギー消費量はそれぞれ10%、20%、30%増えることになるということ。


■エネルギーの摂取量
 行動中のエネルギー補給量の目安は、エネルギー消費量と等しくする必要はなく、その7~9割程度で良い。
 例えば、朝:カップラーメン(280kcal)、昼:あんぱん2個(672kcal)、行動食:あめ・チョコ・ジェル(150kcal)、夜:フリーズドライご飯(370kcal)でも、1,500kcalに満たない事がわかる。やっぱ、山ではもっと食べなくちゃね。

★★★トムラウシ縦走に必要な体力(参加条件)
 ・ざっくは15kgを背負う
 ・毎日8~10時間歩く
 ・3日連続で歩く
 やっぱ、この基準をクリアできない人は参加すべきでないと思う。

 ※トムラウシ山の(正式な)事故報告書はダウンロードできるようになっています。



【内容情報】(「BOOK」データベースより)
2009年7月16日、大雪山系・トムラウシ山で18人のツアー登山者のうち8人が死亡するという夏山史上最悪の遭難事故が起きた。暴風雨に打たれ、力尽きて次々と倒れていく登山者、統制がとれず必死の下山を試みる登山者で、現場は衆らの様相を呈していた。1年の時を経て、同行ガイドの1人が初めて証言。真夏でも発症する低体温症の恐怖が明らかにされ、世間を騒然とさせたトムラウシ山遭難の真相に迫る。


★★★★


------
15.0 km 1時間36分00秒 走りました 9.4 km/h (06'24 /km)
体重:56.0kg (+0.3kg)
体脂肪率:13.2% (+0.5%)

この記事へのコメント

異邦人
2011年08月01日 10:28
~☆ 〇さんへ ☆~
本人は気付かなくても低体温症
になってしまっていることがあるんですね。
人によって体力は違うでしょうけど、
調子悪いと気が付いた時には遅いんですね。
2011年08月01日 23:07
>異邦人さん
 そうなんです。本人には低体温症の意識が全くないことが問題なんです。だから、第3者が行動パターンの特徴を捉えて注意してあげないといけないんだそうです。立ち止まり、転倒、直立不動、呂律が回らない、、、こんな症状が出てきたら要注意ですね。


 
レン
2011年08月02日 10:41
タイトルを見て、この時期、○さんが低体温になられたのか
と思ってしまった。。。<おばかさん。

レンが三浦を走ったときは、ろれつが回らなかったそうですから、
きっと体温が34~35度だったのでしょう。
歩いているときに、「大丈夫ですか」って、支えられたし。
しかも、本人はちゃんと歩いている、話している
と思っていましたから、全くの無自覚症状です。
怖いですね。。。
2011年08月02日 22:44
>レンさん
 ◯は白雲岳避難小屋までしか行っていないんです。
 そこで偶然横浜の知り合いと会ったんですが、彼ら夫婦はそのままトムラウシに縦走して行きました。僕達もいつかはトムラウシと思っているんですが。

 三浦は寒いし、低体温症の疑い大ですね。怖いですね。
 予防方法ってないですもん。レスキューシート巻きつけて走るといいかも。
ほり
2011年08月04日 22:25
昨年の富士山頂で、ご来光までの1時間、寒かったねー。MMKの連隊旗にくるまろうかとか、体も歯もがたがた頭はくらくらだったから、35度くらいまで下がったかも。それでもやせ我慢したねー。ご来光のばんざーいで忘れてしまったよ。
2011年08月05日 23:58
>ほりさん
 ほんと、山頂で御来光を待つのは寒いです。
 レスキューシート(薄い銀紙みたいなもの)を体に巻けば温かいです。
 軽いので持ち運びにも便利です。
 太陽が出ると一気に暖かくなります。